「うつ」の一般的な治療
前回のブログでお話ししたように、「うつ」といってもその成因、機序は様々です。一つの疾患ではなくあくまで症候群ですから、原因ごとに個別的な対応が求められます。
具体的なストレスが存在している場合には、まずストレスそのものを緩和する必要があり、休養や社会資源の活用も含めた環境調整がそれにあたります。
そして一般的治療としては、薬物を使用されることが多いと思われます。
薬による治療は重要、しかし…
それは、治療手段としての手軽さということだけではなく、本人の苦痛を一刻も早くとり除くことを最優先課題としたとき薬物以上の効果が期待できる治療手段が少ないからです。
確かに抗うつ薬の切れ味はとてもシャープで、これを手離すことはできないという方もたくさんいます。しかし、薬物が無効または、限定的な効果しか得られないというケースもそれなりに存在します。
そうした場合、速効性には劣るものの認知療法やカウンセリング、栄養療法等にも効果が認められます。
栄養で身体を調え「うつ」を改善
特に、栄養療法は予防的視点からも、また身体的な要因が疑われるケースでは根本治療として期待できるものです。
栄養療法は、検査(主に血液検査)結果をもとにして栄養学的な過不足を補い症状の改善を図るものです。主にビタミン、ミネラル、脂質、糖、アミノ酸等の調整が必要となります。うつ病の機序としては「神経細胞間での情報伝達障害」が考えられていますが、栄養素がそこに介在する生体分子の生合成に密接に関わっているという事実を踏まえれば、適度なバランスのとれた栄養状態が生体にとって必要不可欠であり、生体の不調のひとつともいえる「うつ」に有効であると考えるのはごく自然な帰結と思われます。
栄養療法ってどんなことをするの?
栄養療法では、まず、血液検査等で患者様の現在の栄養状態を調べたうえで、足りない栄養素、摂り過ぎている栄養素を把握し、食事で積極的に摂ったほうがよい物やなるべく避けたほうがよい物を指導したり、摂るべきサプリメントの指導を行ったりします。薬物のような症状への速効性や手軽さはありませんが、地道に続けて行くことで生体機能に即したより本質的な治療法となり、減薬へのステップとなると考えています。
身体と心を調える「ホルモン」
また、栄養療法と切り離せない関係にあるのが「ホルモン療法」です。女性ホルモンや副腎ホルモン等のバランスの崩れが精神的不調の原因となることはよく知られているところです。不足したホルモンの補充(クリームで皮膚から吸収させる方法などがあります)をすることで、ストレス耐性の改善、服薬量の減量、症状の再発予防、うつ以外の体調改善等なんらかの副次的効果も期待でき、栄養療法と同じく生体機能に即したより本質的な治療法となることから、栄養療法と並んで試す価値があるものと考えています。
当院における「うつ」治療の方針
このように、「うつ」治療には様々なアプローチが可能です。当院では、休職を勧めるなどの環境調整の指導、取り急ぎ苦痛を緩和させるための薬物治療、根本治療を目指す栄養療法、ホルモン療法等を患者様の状態に応じて適宜選択し、提案します。栄養療法は患者様による努力も必要となるため、医師からそれぞれの治療法についてのメリットやデメリットを丁寧に説明し、患者様が納得して治療を進めていけるよう心掛けています。
また、今後の研究によってさらに有効性が期待できる治療方法があれば、柔軟に取り入れ、従来の治療に組み込んでいけるか検討していきます。
わからないことや治療法についての要望があれば、遠慮なくお気軽に医師にご相談下さい。